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「よーし、33個目っと」


机に有機溶剤作業主任者資格の終了証を置くと、
スマホで写真を撮り、ツイッターやブログにアップする。


僕は自他ともに認める資格マニア

 


仕事は事務作業が中心のデスクワークで、
もちろん実際に、

有機溶剤に触れるようなことは今後ないだろう。


ただ、持っている資格が増えると
自分のランクが一つ上がったような気になれるのと、
他に自慢できることが無いだけだ。

 


勉強は嫌いじゃないし、
「何か資格持ってる?」
そんな話題になれば密かに顔がにやける。

 


そんな瞬間のために、
お金時間を使っている……
まあ、趣味みたいなものかもしれない。

 


お酒もタバコもやらない僕にとって、
テキストの購入
受験会場へ行くためなんかの諸々の費用はかかるものの、

資格という消えない証が残ることは素晴らしい、と、
そう信じているのだ。

 

「さて、次は何にしよっかな」

 

34個目を目指し出来るだけ、
実技試験が必要ない資格を探す。

 

手元には英検漢検のような語学系から
食生活アドバイザーインテリアコーディネーターのような女性っぽいものや、

 
そして今日アップした
有機溶剤作業主任者危険物取扱資格のような現場っぽいものまで
多種多様の資格がある。

 

そして、
この種類の幅が広ければ広いほど、さらに満たされた気持ちになる。

 

次に取りたい資格は、すでに数種類リストアップしていた。
その中から選ぼう、とパソコンの電源を入れる。

 

「と、その前に……」

 

ネットで知り合った同じく資格マニアの友人からブログにコメントが
きているのを見つけ、まずはそっちに返信をすることにした。

 

[33個目おめでとう、僕は次に潜水士試験を受ける予定]

 

「ふーん、潜水士か」

 

一応リストに入っていはいるものの、
僕の次の選択肢には入っていなかった潜水士。

 

しかし、彼が受けるというのなら
何か惹かれるものがある。

 

「じゃあ便乗して、僕も潜水士にしてみるよ」

 

これまではタイミングが合わなかったけれど、
たまには一緒に同じ資格を目指してみるのもいいだろう。

 

もちろん、
運動神経皆無な僕が、海に潜るなんて日はまず来ないだろうけれど。

 

潜水士試験に照準を合わせた僕は、早速資料を集めた。

 

インターネット上には、
潜水士について詳しく書かれているWebサイトもあって、とても参考になった。

 

「潜水士チャンネル…。海でつながろう、か…。」
 

 

僕が思い描いていた潜水士というのは、
いわゆるダイビングとか、
そういうレジャー的なものだったけれど、
知っていくにつれそうじゃないことが分かる。

 

例えば、海での工事作業なんかや、
海中に生息している生き物を採る仕事。

 

沈没した船から中身を回収なんていう
ロマンに溢れる記述もある。

これまで取得してきた資格は、
どちらかというと、


一つの事に特化したものが多かったのだけれど、
潜水士免許の使い道の多さは、そのまま魅力だ。

 

 

さて、実際に問題を解き始めると
潜水士免許は暗記系であるものの、専門用語が多いパターン。

 
こういう場合は、
面倒でも一つ一つの用語について学んでおいた方がいい。

 
結果として効率が良くなるからだ。

 

潜水の種類方法
物理的な勉強の部分から人体についてまで幅広い内容は、
知識がごちそうである僕にとってひたすら楽しい。

 

この潜水士、資格への挑戦
僕を少し変えてくれるようだった。

 

海に行ってみたい…。

 

 

初めてそう思わせてくれたこともあるし、


勉強している間も、


脳裏に海が浮かぶことで落ち着くような気もする。

 

「潜水士、正解だったな」

 

きっかけをくれた友人に感謝しなくては。

 

 

それから少しして、
僕は当然のごとく一発合格で潜水士の免許を手に入れた。

 

「よし、34個目」

 

会社の休憩時間に写真を撮ろうとしていたら、
不意に女子社員の声が聞こえる。

 

「何してるんですか?」

 

「これ?潜水士の免許。34個目の資格なんだ」

 

「…………」

 

いつもだったらお世辞でもすごいと言われる僕の資格数。
けれど、新入社員の彼女は違った。

 

「潜水とか、趣味なんですか?」

 

「いや、全然。だって僕は資格マニアだから。」

 

「なんかもったいないですね」

 

「もったいない?」

 

資格って生かさなきゃ、持ってる意味ないじゃないですか?」

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

今度は、僕が黙る番だった。

 

彼女はそんな僕には気付かず、同僚を見つけて去っていく。

 

「僕の資格に意味がない??」

 

頭をハンマーで、打たれたような衝撃だった。

 

僕が彼女にひそかな恋心を
抱いていたせいかもしれないけれど。

 

 

翌日、
僕は有給を使って海に来ていた。

 

働いている潜水士を見てみたかったのだ。

 

港には、潜水装備を持った男たちがいた。

 

僕は、その一つ一つの名称を言える。

 

だけど、潜水士ではない……。

 

あまりにじっと見ていたせいか、一人の男が近づいてきた。

 

「こういう仕事に興味ある?」

 

胸にマリンズと書かれたつなぎを着た男は、にっこりと笑う。

 

「興味というか、先日、潜水士の資格を取ったもので」

 

「そうなんだ、仕事が欲しいなら紹介するよ?」

 

「いや、僕はどっちかというと頭脳派で肉体労働はちょっと…」

 

 

「それなのに、資格取ったの?」

 

「変、ですよね?
 僕、資格34個も持ってるんです。使わないのに…。」

 

自分で自分を嫌いになってしまいそうだった…。


うつむいた僕に男は言った。

 

「凄いよ!それだけ取れるってさ。
 勉強のコツとかあるんだろうな。先生とかやればいじゃん」

 

「先生……か」

 

そんなこと…。

 

そんなこと…、考えてもみなかった。

 

じゃあ、と男は海へ向かって歩きだす。

 

大きな海が、
まるで僕のことを後押ししてくれているみたいに感じた。

 

確かに資格を取得するのに、効率のいい勉強法はある。

 

趣味を仕事にしたのなら、もっと胸を張れるかもしれないな…」

 

 

半年後、僕は会社を退職し、
駅前の小さなビルの一室を借りて塾を始めた。

 

資格専門の塾だ。

 

僕を変えてくれた潜水士免許のコースから
まずは始めることにする。

 

その後も順次コースを増やしていきたいし、
そのために僕は資格を増やすことができる。

 

資格マニアにとってこんなに充実した生活はない。

 

玄関には、海の写真やオブジェを飾った。

 

僕は海に潜らないけれど、
海に潜りたい人たちを繋ぐことは出来るんだ。

 

それが嬉しい。

 

「あの……」

 

声をかけられて振り向くと、屈強そうな作業着の男が立っていた。

その手には、先日作った潜水士コースのチラシを持っている。

 

「社長から、ここで勉強して免許取るように言われてきたんだけど」

 

「はい、潜水士コースですね。お任せください!」

 

「あんま勉強とか得意じゃないんだけど」

 

「大丈夫ですよ、すべてはコツです」

 

ほっとした表情になった彼が、
海に潜る日を想像しながら、

 

僕は、自作のテキストを手にとり
最初の講義を始めた。

 

夢は大きく

目指すは、合格率100%だ!

 

4人

【END】

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港湾潜水技士 松山だいすけ

港湾潜水技士 松山だいすけ港湾潜水技士

投稿者プロフィール

1980年東京都稲城市生まれ。元動物看護士。
現役の港湾潜水技士であり、実業家。
『潜水士試験合格アドバイザー』
昨年12月に、横浜にてセミナー講演を行う。
■□■□■
 いつでもどこでも気軽に学べ、現役のプロダイバーが伝える、
どこよりもわかりやすいオリジナル『潜水士試験』教材を開発する。
 潜水士、インストラクターを目指す人に教えている。
資格取得後も、人材派遣の紹介で潜水士に限らず、他業種の仕事をあっせんをする等、幅広く活躍中。
 ダイバー関連雑誌取材紹介あり、ラジオ番組出演等あり。

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コメント

    • アリマ次郎
    • 2015年 5月 15日

    資格って実用的なものとそうじゃないものに分かれますよね。専門的なものになると職業ごとに使うか否かがわかれます。
    実際、私も使わない資格ばかりです。
    主人公も資格を取るという考えから、だんだん潜水士そのものの資格の魅力に気づき、最終的には自分の将来を担うきっかけになりました。
    潜水士という資格を持っていると普段見る海も違ったかたちで見えるかもしれませんね。

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