潜水士試験
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兄ちゃん、毎日偉いね」

 

「いえ……」
 

「なにか夢でもあるんだろ?頑張りな!」

 
肩を叩き、豪快に笑いながら去っていくお客さんの後姿に頭を下げながら、
僕は品出しへと戻る。

 

ここは、深夜のコンビニ。
確かに、他の深夜バイトは売れない劇団員だったり、
学費を稼ぐ為だったり、何かしらの夢を持っていた。

 

だけど、僕だけは何もない。
時給につられて働いているだけの、ただのフリーターだ。

 

 

そういえばさっきの常連さん、
前は汚れた作業着を着てだるそうにしていたのに、
最近は、こざっぱりとして表情も明るい気がする。

 

いつも手にしてたパチンコ屋の景品を持っていることも少なくなったし、
買う煙草の数も減っている気がする。

 

なにか、いいことでもあったんだろうか。

 

「いいなあ…。」

 

「ん、どうした?」

 

「いや、なんでもない…。」

 

話しかけてきたのは、昔から一緒に働いてきた仲間だけれど、
こいつは来月から就職が決まっている。

 

リア充に僕の気持ちなんか分かるわけない、と首を横に振った。

 

夜勤明けの朝。
街は会社や学校へ向かう人々でごった返す。

その流れに逆行するように、家へと向かう帰り道。
フリーターの実家暮らしは肩身が狭く、
早く就職したら?という聞き飽きたセリフから逃げるように自分の部屋へひきこもる。

 

そうしてまた、
夕方に目を覚まし、コンビニでバイトをして……の毎日が僕の日常だ。

 

昔は就職活動もした。
けれど、不採用が続くにつれ、
自分には価値がないのかと不安になっていった…。

それならば
「君がいてくれなきゃ困る」と言ってくれる店長の下で働いている方が
楽だと気付いてからは、ずっとここにいる。

 

従業員仲は悪くないし、待遇もそれなり。
いつまでもこのままじゃいられないのは分かっていても、
新しい一歩がなかなか踏み出せないのだ。

 

ごろんとベッドに寝っ転がると、
本棚に置いてある模型が目に入った。

 

海上自衛隊の護衛艦だ。
昔、海での仕事に憧れていたころに作ったもの。

 

その夢も、
お前の体力じゃ無理だと父親に一蹴され、
何にも役に立たない大学に入ったことで潰しのきかない現在だ。

 

今思えば、あの時無理やりにでも我を通せばよかった。
最近はこんな後悔ばかりしている気がする。

 

 

夕方、またコンビニバイトへ向かう時間がやってきた。
母親が忙しい中、作ってくれたのだろう。

 

リビングに置いてあった”おにぎり”をかじながら、支度をする。
”おにぎり”のしょっぱさが母親の気持ちとリンクして、胸が痛い。

 

街頭に出ると、
チラシ配りをしている人が今日は多いようだった。

 

「お願いします〜!」

 

ミニスカートの女の子が多い中、
真面目そうな風貌の男に一枚のビラを貰う。

 

【潜水士になりませんか?】

 

そう書かれたチラシには、
海への誘いの言葉が並んでいる。

 

自分の夢を思い出して、思わず足が止まった。

 

「興味ありますか?
僕、そこのビルで潜水士を始め、いろいろな資格の塾を開講しているんです」 

 

「…。もらっておきます」

 

強引な感じはなく、どこか楽しそうな男の言葉に僕はまた少し俯いた。
輝いているオーラから逃げたいようなそんな気持ちで。

 

バイトに入ってからも、さっきのビラが気になった。
休憩時間に取り出してみると、

潜水士の資格は、
実技試験はなく、勉強すれば手に入れられるのだという。

 

スマホを使ってさらに調べてみると、
免許があれば実技的なことは、現場で学ぶのが主流であり、
潜水士の求人はどうやらありそうなことも知る。

 

もしかしたら……。

 

胸に小さな炎が灯る。

 

自衛官じゃなくとも、海で仕事をすることが出来るかもしれない。

 

どうして、海に惹かれるのか?
と聞かれても理由なんかはないけれど、
しいていうなら、絶対的な力を持つものに触れていたいとか、そんな想い。

 

海に寄り添い、
就職を叶えることが出来たなら……

 

 

もしかしたら、
潜水士になれば、二つの夢を同時に叶えることが出来るかもしれない。

 

とはいえ、塾に通っているほどの時間や余裕もない僕は、
帰宅するとネットで潜水士資格について検索をした。

 

すると、過去の試験問題なんかを見ることが出来た。

 

「やってみるか」

 

バイトのない時間、
インターネットを駆使して、僕の戦いが始まった。

 

自分のために勉強をするなんて初めてかもしれない。

 

言われるがままじゃなく、
目標に向かって学ぶ時間は楽しく、あっという間に日が経っていく。

 

「最近、いいことあった?」

 

例の常連さんにもそう聞かれ、
小さく微笑みながら頭を下げる。

 

自分の心が満たされていくにつれ、
周りをうらやむことがなくなり、自然と優しくなれるようだった。

 

 

そうして、いよいよ試験の日。

 

潜水士試験のことは、誰にも話していない。
無事に合格し、就職することが出来たなら、
初めて胸を張って、両親に報告しようと決めていた。

 

緊張で震える手で、試験問題に挑む。

本気で向き合った成果は上々で、
自信をもって回答を埋めることが出来た。

それは、
僕自身への自信にもつながっていく。

 

 

それから3ヶ月後。

「長い間お世話になりました」

 

僕は、店長に頭を下げる。

 

「頑張ってな。たまには顔だせよ」

 

「はい」

 

「本当は、ずっといて欲しかったんだからな」

 

「すみません」

 

「謝るなよ。今までありがとう」

 

今日、僕はコンビニを辞めた。

 

店長の言葉で、
ここは温かい居場所だったんだと気付く。

 

ここでバイトをしてきたからこそ、
新しい一歩を踏み出せたんだということにも。

 

 

そして次は、自宅。
そわそわしながら両親の帰宅を待つ。

 

下手くそなチャーハンだけど、
珍しく僕が料理を作ったりしてみた。

 

「ただいまー。あら?何の香り?」

 

「夕飯、作ってみた」

 

「作ったって……もうバイトの時間じゃないの?」

 

そんな問答をしていると、父親も帰宅する。

 

「今帰ったぞ……ん?
 どうした、具合でも悪いのか?」

 

父親は、僕が風邪でもひいて家にいるのだと思ったらしい。

そうじゃなくとも、部屋にこもってない僕は久々だろう。

 

「実は、二人に話があるんだ」

 

声が震える。

 

普段と違う僕の様子に、
両親も不思議そうな顔をしながら椅子に腰を下ろした。

 

「どうしたの?」

 

「うん、今日でコンビニを辞めてきた」

 

そういった瞬間、父親の表情が怒りに変わる。

 

「何っ!」

 

「あっ、そうじゃなくて」

 

慌てて差し出したのは、潜水士免許
そして、潜水会社からの内定通知書。

 

「来月から就職するから」

 

伝えた瞬間に母親は顔を覆い、
そして手の隙間から涙が溢れた。

 

驚かせるつもりで隠してきたけれど、
その涙を見たら、これまでどれだけの心配をかけてきたのかが分かって、
つられて泣きそうになる自分を抑える。

 

父親は、ほっとした顔をして僕たちを見ていた。

 

「美味しくないかもしれないけど食べて」

 

「せっかく就職が決まったってのにお前の作ったチャーハンで祝いなんてな」

 

茶化した父親の言葉で、ようやくみんなが笑顔になる。

 

明日はどこかでお祝いするか、そう言った父親を僕は止めた。

 

それなら僕が、
就職して貰った初給料で二人にご馳走したいと思ったからだ。

 

 

「おはようございます」

 

「よーし、今日も新しいこと教えるからしっかり覚えるんだぞ」

 

「はい!」

 

ずっと焦がれていた海での仕事は毎日が楽しい。

 

自分がいるから安全を守っているのだ。
という気持ちは何物にもかえられない。

 

誰にでもできる仕事を経験したからこそ、そう思えるんだろう。
やりがいを感じながら準備をしていると、
見慣れた顔がひょいっと顔を出した。

 

「あれ?コンビニの兄ちゃん?」

 

「あ……どうも」

 

いつもの常連さんだ。

 

「なんだ?同業になったなら、言ってくれたら良かったのに…。」

 

……彼も潜水士だったんだ。

 

まあ、そんなことを言われても伝えようがないけれど(笑)

 

「最近、顔見ないから心配してたぜ。
じゃあ、俺あっちの現場だから」

 

大きな体を揺らしながら、歩いていく元常連さんを見送りながら思う。

 

僕も今、
負けないくらい、いい顔をしているに違いない。

「さあ、行こうか」

 

「はい!」

 

波の音が強くなる。

 

やる気に満ちた僕を、海が大きな胸で歓迎してくれているようだ。

 

4人

【END】

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港湾潜水技士 松山だいすけ

港湾潜水技士 松山だいすけ港湾潜水技士

投稿者プロフィール

1980年東京都稲城市生まれ。元動物看護士。
現役の港湾潜水技士であり、実業家。
『潜水士試験合格アドバイザー』
昨年12月に、横浜にてセミナー講演を行う。
■□■□■
 いつでもどこでも気軽に学べ、現役のプロダイバーが伝える、
どこよりもわかりやすいオリジナル『潜水士試験』教材を開発する。
 潜水士、インストラクターを目指す人に教えている。
資格取得後も、人材派遣の紹介で潜水士に限らず、他業種の仕事をあっせんをする等、幅広く活躍中。
 ダイバー関連雑誌取材紹介あり、ラジオ番組出演等あり。

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コメント

    • アリマ次郎
    • 2015年 5月 15日

    最近、挑戦したことはなんだっただろうか? ストーリーを追いながら自分を振り返ってしまいました(笑)。
    新しいことに挑むことは不安だし、難しい。でも、それを乗り越えてこそ新しい自分に生まれ変われるのかもしれません。
    このお話に背中を押されました。

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